哀れ

対照的に小川は悠然と緋影に歩み寄って来た。

「これで『心眼』は使えない。深山君に私を殺せる可能性はもう消えた」

緋影に攻撃能力がなくなったという事は、もちろん葵にもこの化け物を止める術がない、という事だ。

「さあて、どういたぶろうかしら。ぞくぞくするわ」

恍惚とした表情で彼女は目の前まで歩いてくる。

じりじりと後退する緋影であったが、壁にドン、とあたる。

退路はない。

それでも緋影は小川の眼を見据えてる。

瞳にはいまだに赤い殺気が灯されている。

この状態でも、これほどの殺気を出せる緋影に彼女は少々感心したようだ。

赤い殺気を悟った小川を象ったそいつは、

(……だけどこの状態じゃどうしようもないというのに。けど念には念を入れて、早めに殺して、深山君の能力は頂いておきましょう)

思考し、右腕を鋭い刃に変形させる。

「それじゃあ、深山君の能力、頂くわね」

邪な笑みを浮かべ、刃を緋影の心臓部に振り下ろした。

鮮血が廊下に飛び散る。

「……なっ!」

驚愕と共に小川は眼を見張った。

眼前には葵が立っている。

刃を自らの右肩に受ける事で緋影を庇ったのだ。

緋影はすでに動いている。葵の背後から床に落ちているナイフに向かう。

「小賢しい真似をっ!」

しかし、小川の左腕は葵の両腕によってがっちりと押さえられ、刃に変形させた右腕はいまだに右肩の肉に固定されている。