軌跡
風がざわざわと木々を揺らす。まるで生い茂った青い葉が凍てつく殺気と、血を連想させる赤い夕日に恐怖しているかのように。
直後、葵の姿が再び霞む。
さっきの手はもう使えない。二度も同じ手が通じる相手ではない。
だが、背を向けて逃げるのはそれ以上にまずい気がする。
黒い軌跡が眼前に迫って来る。
軌跡をポケットから取り出したナイフで受け止め、膝蹴りを葵の腹に打ち込もうとする。だが、戦意のない、迷いのある半端な攻撃が通じる訳がない。
膝蹴りをすっ、と体を引いてかわすと葵は槍の柄を緋影の首元に放っていた。
「ぐあっ!」
緋影は咄嗟に攻撃を左手で受けた。激痛が走る。
山型に折れた腕に眼もくれずに、葵を睨み付ける。再び距離が離れている。
「首を庇って左腕一本ですか。無駄な抵抗をしなければ楽なのに」
葵は顔に一切の表情を浮かべずに淡々と言う。
(……ここからなら校舎に入れる)
思考する緋影に、
「……眼鏡、外さないんですか?」
葵は呟く。
だが、その言葉の意味を深く考えられるだけの余裕がこの時の緋影にはなかった。