哀れ

「ほざけっ!貴様だけは……貴様だけは刺し違えてでも殺すっ!」

緋影の瞳が赤い殺意の光を放つ。一瞬、そいつは尋常ではない殺気にたじろぐ。

だが、怯みはすぐに消え、

「なら、やってみなさいよっ!」

体が宙を舞って緋影に襲い掛かる。

(一瞬!一瞬でいいんだっ!『歪み』を確実に突ける隙さえできれば……)

小川が緋影の喉笛を掻き切ろうと迫る。

この攻撃を反応よく左腕に走る『罅』を切断。

だが、小川は即座に右の手刀を緋影の心臓に放っていた。

(やばいっ!)

手刀が緋影の心臓を貫こうとする刹那。

後方から飛来した数本の短刀が次々と小川の肉体に突き刺さり、彼方に吹っ飛ばされる。

後は振り返らない。誰が自分を助けてくれたかはわかっている。

「大丈夫……には見えませんね、深山君」

無機質な声が後ろから聞こえてくる。

「先輩、頼みがある」

「何ですか?」

「隙を作ってくれ。あいつが俺の攻撃をかわすことも、防ぐことも出来ない決定的な隙を」

緋影は矢継ぎ早に言う。

「俺の『心眼』を使わないと、あいつを消す事は出来ないようだ。酷な要求だろうけど……」

「わかりました。深山君はさがって、好機を伺っていて下さい」

答えると葵は、次の瞬間には小川の懐に飛び込んでいた。

黒い輝きが小川の左腕に走る。