逃走
しかし、どうやって逃げる?
「学校の敷地外には出れませんよ。結界を幾重にも張りましたから」
思考を読んだのか、葵は機先を制してそう言った。
冷や汗が地面に落ちる。大気が凍るような殺気が直に伝わってくる。
話からしても説得は無理だろう。
戦う、という選択は頭に浮かばなかった。
やはり逃げるしかない。
……問題はどうやって逃げるか、だが……
葵の姿が突然消えた。
いや、正確には消えていないのだが、今までのゆっくりとした歩みとの急激な速度の差と、這うような低い姿勢によって、緋影には消えたように見えただけだ。
緋影は本能的に葵の方に飛び込んでいた。
背を向けて逃げれば槍で心臓を串刺しにされる。そんな感じがずっとしていた。
葵は相当な手練だ。真っ正直に逃げる事は出来ないはず。なら、意表を突くしかない。
突然自分の懐に飛び込まれた葵は、右手で腰から黒剣を抜いて、接近した緋影の首目掛けて斬撃を放つ。これを寸での所でかわしたが、太く長い槍による第二撃まではかわせなかった。
槍の柄で胸を強打され、数メートル吹っ飛ばされた。
(……こんな所で……死ぬ訳にはいかないっ!)