自我
もしも、自我を失いそうになり、意思に逆らって殺人に走るのであれば。
その時は『心眼』を使って自らの命を、心を断つ。
夕日を見つめながら、緋影は想う。
三日前に自分が殺した彼女のことを。
……彼女は、殺さなければならなかった……
……他に、どうしようもなかった……
ホントウニソウカ?
本当に他に方法が無かったのなら、どうしてこんなに悩むのか。
理性が他に方法が無かったと訴えても、感情までもが納得できるはずが無い。
あれから努めて彼女のことは考えないようにしてきた。その為に躍起になって動いて体を疲れさせたり、寝ることで思考しないようにしてきた。
考えていたら、心が枯れてしまいそうだ。
だが、やはり考えてしまう。
どうして彼女は最後まで笑っていられたのか。
どうして死の間際で彼女の心はあんなに澄んでいたのか。
どうして『ありがとう』だなんて言ってくれたのか。
「…………」
答えは、見付からない。
深く、深く、息を吐き出す。
覚悟は出来た。あとは葵を待つだけだ。
風が舞う。木々がざわめき、その人物の来訪を告げる。
「……先輩」
今日の彼女はやはり、あの白のブラウスに濃紺のコート、スカートという戦闘スタイルだった。そして、黒剣を腰に差し、かなり長く、太い槍を左手に携えている。恐らくは様々な武器も懐に収めているのだろう。