偽善
それでも血走った赤い瞳で睨み付けることで、それ以上の追撃を許さない。
小川の左腕はやはり再生を開始している。
と、
「深山……君?」
口調が変わった。豊かな感情を湛えた、深みのある言葉。
「ひょっとして……また……そんなっ!」
悲痛な叫びをあげながら彼女は頭を抱える。
背後に見える『色』は、自責の念に染まっている。
「小……川?」
大きな瞳が涙を湛えている。
「深山……君……苦……しい……」
しかし、緋影は俯く。
「……小川……俺は、正義の、味方には、なれない」
え?と呟く彼女に緋影は続ける。
「俺は、君を、そいつから……助けることは、できない」
……だから……
「別の、方法で、君を……何とか、しようと、思う」
助ける、と言わなかったのは、それが、偽善だと、わかっているから。
「俺は、君を…………殺す」
彼女の気配が変わっていく。
「随分痛そうね、深山君。楽にしてあげましょうか?」
流暢な、人の痛みを解さない、下種な声。
背後で渦を巻くのは、快楽に染まる漆黒。
(……こんな奴にも……こんな奴にも『心』があるのは、ありとあらゆる『心』を持つ者に対する冒涜だ……!)