IF
「……そうですね。私も、この数日は夢のようでした」
「?」
葵の呟きの意味がわからない。こんな事件は彼女にとって日常ではないのだろうか?
「こんな、普通の人らしい生活をしたのは、久しぶりです」
どことなく寂しそうな表情で、夜空を見上げる。
……そうか……
こういった戦いが『日常』の彼女にとっては、自分達のように普通に生活することの方が夢のように憧れるものなのだろう。
ほんの一瞬、眼鏡越しに見えた彼女の心の色が、泣いているように見えた。
「……本当に、夢のように、楽しい日々でした……」
が、それはもうすでに見えない。大体眼鏡越しには『心の色』は見えないはずだ。眼の錯覚だろう。
「……もう会えないのかな?」
葵と一緒に後門を出ると、単刀直入に尋ねた。
すると、
「深山君を残して、勝手にどこかに行く訳がないじゃないですか」
うってかわって彼女は小悪魔のような微笑みを浮かべる。
「……何なんだかな」
「それじゃ、とりあえすここでお別れです、深山君。また今度会いましょう」
思わず苦笑する緋影に、葵は笑顔を向けていた。
緋影は疲れ切っていた為、力無くだが、葵に微笑み返した。
……そう、この時緋影が、葵の表情をもっと気をつけて見ていれば……
……あるいは眼鏡を外して彼女の心を見ていれば……
……緋影がこれほどまでに心も、体も疲労していなければ……
葵の笑みが、どことなくぎこちないことに気付いていだだろう。